は闃《げき》として靜《しづか》かであつた。
 アンドレイ、エヒミチは、イワン、デミトリチの寐臺《ねだい》の上《うへ》に腰《こし》を掛《か》けて、大約《おほよそ》半時間《はんじかん》も待《ま》つてゐると、室《へや》の戸《と》は開《あ》いて、入《はひ》つて來《き》たのはハヾトフならぬ小使《こづかひ》のニキタ。病院服《びやうゐんふく》、下着《したぎ》、上靴抔《うはぐつなど》、小腋《こわき》に抱《かゝ》へて。
『何卒《どうぞ》閣下《かくか》是《これ》をお召《め》し下《くだ》さい。』と、ニキタは前院長《ぜんゐんちやう》の前《まへ》に立《た》つて丁寧《ていねい》に云《い》ふた。『那《あれ》が閣下《かくか》のお寐臺《ねだい》で。』と、彼《かれ》は更《さら》に新《あたら》しく置《おか》れた寐臺《ねだい》の方《はう》を指《さ》して。『何《なん》でも有《あ》りませんです。必《かなら》ず直《すぐ》に御全快《ごぜんくわい》になられます。』
 アンドレイ、エヒミチは是《こゝ》に至《いた》つて初《はじ》めて讀《よ》めた。一|言《ごん》も言《い》はずに彼《かれ》はニキタの示《しめ》した寐臺《ねだい》に移《うつ》り、
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