で》たのである。彼《かれ》はハヾトフが昨日《きのふ》の事《こと》は噫《おくび》にも出《だ》さず、且《か》つ氣《き》にも掛《か》けてゐぬやうな樣子《やうす》を見《み》て、心中《しんちゆう》一方《ひとかた》ならず感謝《かんしや》した。這麼非文明的《こんなひぶんめいてき》な人間《にんげん》から、恁《かゝ》る思遣《おもひや》りを受《う》けやうとは、全《まつた》く意外《いぐわい》で有《あ》つたので。
『貴方《あなた》の有仰《おつしや》る病人《びやうにん》は何處《どこ》なのです?』アンドレイ、エヒミチは問《と》ふた。
『病院《びやうゐん》です、もう疾《と》うから貴方《あなた》にも見《み》て頂《いたゞ》き度《たい》と思《おも》つてゐましたのですが……妙《めう》な病人《びやうにん》なのです。』
施《やが》て病院《びやうゐん》の庭《には》に入《い》り、本院《ほんゐん》を一周《ひとまはり》して瘋癲病者《ふうてんびやうしや》の入《い》れられたる別室《べつしつ》に向《むか》つて行《い》つた。ハヾトフは其間《そのあひだ》何故《なにゆゑ》か默《もく》した儘《まゝ》、さツさ[#「さツさ」に傍点]と六|號室《がうし
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