に差出《さしだ》してゐる農婦《のうふ》に怒鳴《どな》り付《つけ》る。『俺《おれ》の用《よう》の有《あ》るのが見《み》えんのか。いや過去《くわこ》は思《おも》ひ出《だ》しますまい。』と彼《かれ》は調子《てうし》を一|段《だん》と柔《やさ》しくしてアンドレイ、エヒミチに向《むか》つて云《い》ふ。『さあ君《きみ》、掛《か》け給《たま》へ、さあ何卒《どうか》。』
 一|分間《ぷんかん》默《もく》して兩手《りやうて》で膝《ひざ》を擦《こす》つてゐた郵便局長《いうびんきよくちやう》は又《また》云出《いひだ》した。
『私《わたくし》は決《けつ》して君《きみ》に對《たい》して立腹《りつぷく》は致《いた》さんので、病氣《びやうき》なれば據無《よんどころな》いのです、お察《さつ》し申《もを》すですよ。昨日《きのふ》も君《きみ》が逆上《のぼせ》られた後《のち》、私《わたし》はハヾトフと長《なが》いこと、君《きみ》のことを相談《さうだん》しましたがね、いや君《きみ》も此度《こんど》は本氣《ほんき》になつて、病氣《びやうき》の療治《れうぢ》を遣《や》り給《たま》はんと可《い》かんです。私《わたし》は友人《いうじ
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