やく》、夫《そ》れ將《は》た安《いづく》にか在《あ》ると、彼《かれ》は只管《ひたすら》に思《おも》ふて、慙《は》ぢて、自《みづか》ら赤面《せきめん》する。
 其夜《そのよ》は慙恨《ざんこん》の情《じやう》に驅《か》られて、一|睡《すゐ》だも爲《せ》ず、翌朝《よくてう》遂《つひ》に意《い》を決《けつ》して、局長《きよくちやう》の所《ところ》へと詫《わび》に出掛《でかけ》る。
『いやもう過去《くわこ》は忘《わす》れませう。』と、ミハイル、アウエリヤヌヰチは固《かた》く彼《かれ》の手《て》を握《にぎ》つて云《い》ふた。『過去《くわこ》の事《こと》を思《おも》ひ出《だ》すものは、兩眼《りやうがん》を抉《くじ》つて了《しま》ひませう。リユバフキン!』と、彼《かれ》は大聲《おほごゑ》で誰《だれ》かを呼《よ》ぶ。郵便局《いうびんきよく》の役員《やくゐん》も、來合《きあ》はしてゐた人々《ひと/″\》も、一|齊《せい》に吃驚《びつくり》する。『椅子《いす》を持《も》つて來《こ》い。貴樣《きさま》は待《ま》つて居《を》れ。』と、彼《かれ》は格子越《かうしごし》に書留《かきとめ》の手紙《てがみ》を彼《かれ》
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