の權幕《けんまく》に辟易《へきえき》して戸口《とぐち》の方《はう》に狼狽《まご/\》出《で》て行《ゆ》く。ドクトルは其後《そのあと》を睨《にら》めてゐたが、匆卒《ゆきなり》ブローミウム加里《カリ》の壜《びん》を取《と》るより早《はや》く、發矢《はつし》と計《ばか》り其處《そこ》に投《なげ》付《つけ》る、壜《びん》は微塵《みぢん》に粉碎《ふんさい》して了《しま》ふ。
『畜生《ちくしやう》! 行《ゆ》け! さツさと行《ゆ》け!』と彼《かれ》は玄關迄《げんくわんまで》駈出《かけだ》して、泣聲《なきごゑ》を上《あ》げて怒鳴《どな》る。『畜生《ちくしやう》!』
客等《きやくら》が立去《たちさ》つてからも、彼《かれ》は一人《ひとり》で未《ま》だ少時《しばらく》惡體《あくたい》を吻《つ》いてゐる。然《しか》し段々《だん/\》と落着《おちつ》くに隨《したが》つて、有繋《さすが》にミハイル、アウエリヤヌヰチに對《たい》しては氣《き》の毒《どく》で、定《さだ》めし恥入《はぢい》つてゐる事《こと》だらうと思《おも》へば。あゝ思慮《しりよ》、知識《ちしき》、解悟《かいご》、哲學者《てつがくしや》の自若《じゝ
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