ワルシヤワの借金《しやくきん》を拂《はら》はぬので、内心《ないしん》の苦《くる》しく有《あ》るのと、恥《はづか》しく有《あ》る所《ところ》から、餘計《よけい》に強《し》ひて氣《き》を張《は》つて、大聲《おほごゑ》で笑《わら》ひ、高調子《たかてうし》で饒舌《しやべ》るので有《あ》るが、彼《かれ》の話《はなし》にはもう倦厭《うんざ》りしてゐるアンドレイ、エヒミチは、聞《き》くのもなか/\に大儀《たいぎ》で、彼《かれ》が來《く》ると何時《いつ》もくるりと顏《かほ》を壁《かべ》に向《む》けて、長椅子《ながいす》の上《うへ》に横《よこ》になつた切《き》り、而《さう》して齒《は》を切《くひしば》つてゐるのであるが、其《そ》れが段々《だん/\》度重《たびかさ》なれば重《かさな》る程《ほど》、堪《たま》らなく、終《つひ》には咽喉《のど》の邊《あた》りまでがむづ/\して來《く》るやうな感《かん》じがして來《き》た。

       (十六)

 或日《あるひ》郵便局長《いうびんきよくちやう》ミハイル、アウエリヤヌヰチは、中食後《ちゆうじきご》にアンドレイ、エヒミチの所《ところ》を訪問《はうもん》した。ア
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