ひと》しき境遇《きやうぐう》と、思《おも》はず涙《なみだ》を落《おと》して、ドクトルを抱《いだ》き締《し》め、聲《こゑ》を上《あ》げて泣《な》くので有《あ》つた。
(十五)
ドクトル、アンドレイ、エヒミチはベローワと云《い》ふ婦《をんな》の小汚《こぎた》ない家《いへ》の一|間《ま》を借《か》りることになつた。彼《かれ》は前《まへ》のやうに八|時《じ》に起《お》きて、茶《ちや》の後《のち》は直《すぐ》に書物《しよもつ》を樂《たの》しんで讀《よ》んでゐたが、此《こ》の頃《ごろ》は新《あたら》しい書物《しよもつ》も買《か》へぬので、古本計《ふるほんばか》り讀《よ》んでゐる爲《せゐ》か、以前程《いぜんほど》には興味《きようみ》を感《かん》ぜぬ。或時《あるとき》徒然《つれ/″\》なるに任《まか》せて、書物《しよもつ》の明細《めいさい》な目録《もくろく》を編成《へんせい》し、書物《しよもつ》の背《せ》には札《ふだ》を一々|貼付《はりつ》けたが、這麼機械的《こんなきかいてき》な單調《たんてう》な仕事《しごと》が、却《かへ》つて何故《なにゆゑ》か奇妙《きめう》に彼《かれ》の思想《し
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