びんきよくちやう》はアンドレイ、エヒミチに向《むか》つて云《い》ふた。
『貴方《あなた》は何位《どのくらゐ》財産《ざいさん》をお所有《も》ちですか?』
 問《と》はれて、アンドレイ、エヒミチは默《もく》した儘《まゝ》、財嚢《さいふ》の錢《ぜに》を數《かぞ》へ見《み》て。『八十六|圓《ゑん》。』
『否《いえ》、然《さ》うぢやないのです。』ミハイル、アウエリヤヌヰチは更《さら》に云直《いひなほ》す。『其《そ》の、君《きみ》の財産《ざいさん》は總計《そうけい》で何位《どのくらゐ》と云《い》ふのを伺《うかゞ》うのさ。』
『だから總計《そうけい》八十六|圓《ゑん》と申《まを》してゐるのです。其切《それぎ》り私《わたし》は一|文《もん》も所有《も》つちや居《を》らんので。』
 ミハイル、アウエリヤヌヰチはドクトルの廉潔《れんけつ》で、正直《しやうぢき》で有《あ》るのは豫《かね》ても知《し》つてゐたが、然《しか》し其《そ》れにしても、二萬|圓《ゑん》位《ぐらゐ》は確《たしか》に所有《もつ》てゐることゝのみ思《おも》ふてゐたのに、恁《か》くと聞《き》いては、ドクトルが恰《まる》で乞食《こじき》にも等《
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