はじ》めて悟《さと》り、自分《じぶん》に懸《か》けられた質問《しつもん》を思《おも》ひ出《だ》し、一人《ひとり》自《みづか》ら赤面《せきめん》し、一|生《しやう》の中《うち》今《いま》初《はじ》めて、醫學《いがく》なるものを、つくづくと情無《なさけな》い者《もの》に感《かん》じたのである。
 其晩《そのばん》、郵便局長《いうびんきよくちやう》のミハイル、アウエリヤヌヰチは彼《かれ》の所《ところ》に來《き》たが、挨拶《あいさつ》もせずに匆卒《いきなり》彼《かれ》の兩手《りやうて》を握《にぎ》つて、聲《こゑ》を顫《ふる》はして云《い》ふた。
『おゝ君《きみ》、ねえ、君《きみ》は僕《ぼく》の切《せつ》なる意中《いちゆう》を信《しん》じて、僕《ぼく》を親友《しんいう》と認《みと》めて呉《く》れる事《こと》を證《しよう》して下《くだ》さるでせうね……え、君《きみ》!』
 彼《かれ》は院長《ゐんちやう》の云《い》はんとするのを遮《さへぎ》つて、何《なに》かそわ/\して續《つゞ》けて云《い》ふ。『私《わたし》は貴方《あなた》の教育《けういく》と、高尚《かうしやう》なる心《こゝろ》とを甚《はなは》だ敬
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