はなし》。
『主《しゆ》憐《あはれめ》よ、主《しゆ》憐《あはれめ》よ、主《しゆ》憐《あはれめ》よ!』と、敬虔《けいけん》なるセルゲイ、セルゲヰチは云《い》ひながら。ピカ/\と磨上《みがきあ》げた靴《くつ》を汚《よご》すまいと、庭《には》の水溜《みづたまり》を避《よ》け/\溜息《ためいき》をする。
『打明《うちあ》けて申《もを》しますとな、エウゲニイ、フエオドロヰチもう私《わたくし》は疾《と》うから這麼事《こんなこと》になりはせんかと思《おも》つてゐましたのさ。』

       (十二)

 其後《そのご》院長《ゐんちやう》アンドレイ、エヒミチは自分《じぶん》の周圍《まはり》の者《もの》の樣子《やうす》の、ガラリと變《かは》つた事《こと》を漸《やうや》く認《みと》めた。小使《こづかひ》、看護婦《かんごふ》、患者等《くわんじやら》は、彼《かれ》に往遇《ゆきあ》ふ度《たび》に、何《なに》をか問《と》ふものゝ如《ごと》き眼付《めつき》で見《み》る、行《ゆ》き過《す》ぎてからは私語《さゝや》く。折々《をり/\》庭《には》で遇《あ》ふ會計係《くわいけいがゝり》の小娘《こむすめ》の、彼《かれ》が愛
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