全然《まるで》春《はる》です。』
『今《いま》は何月《なんぐわつ》です、三|月《ぐわつ》でせうか?』
『左樣《さよう》、三|月《ぐわつ》も末《すゑ》です。』
『戸外《そと》は泥濘《ぬか》つて居《を》りませう。』
『那樣《そんな》でも有《あ》りません、庭《には》にはもう小徑《こみち》が出來《でき》てゐます。』
『今頃《いまごろ》は馬車《ばしや》にでも乘《の》つて、郊外《かうぐわい》へ行《い》つたらさぞ好《い》いでせう。』と、イワン、デミトリチは赤《あか》い眼《め》を擦《こす》りながら云《い》ふ。『而《さう》して其《そ》れから家《うち》の暖《あたゝか》い閑靜《かんせい》な書齋《しよさい》に歸《かへ》つて……名醫《めいゝ》に恃《かゝ》つて頭痛《づつう》の療治《れうぢ》でも爲《し》て貰《も》らつたら、久《ひさ》しい間《あひだ》私《わたくし》はもうこの人間《にんげん》らしい生活《せいくわつ》を爲《し》ないが、其《それ》にしても此處《こゝ》は實《じつ》に不好《いや》な所《ところ》だ。實《じつ》に堪《た》へられん不好《いや》な所《ところ》だ。』
昨日《きのふ》の興奮《こうふん》の爲《ため》にか、彼
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