ながら出《で》て行《ゆ》く、而《さう》して玄關《げんくわん》の間《ま》を通《とほ》りながら、ニキタに向《むか》つて云《い》ふた。
『此處邊《こゝら》を少《すこ》し掃除《さうぢ》したいものだな、ニキタ。酷《ひど》い臭《にほひ》だ。』
『拜承《かしこ》まりました。』と、ニキタは答《こた》へる。
『何《なん》と面白《おもしろ》い人間《にんげん》だらう。』と、院長《ゐんちやう》は自分《じぶん》の室《へや》の方《はう》へ歸《かへ》りながら思《おも》ふた。『此《こゝ》へ來《き》てから何年振《なんねんぶり》かで、恁云《かうい》ふ共《とも》に語《かた》られる人間《にんげん》に初《はじ》めて出會《でつくわ》した。議論《ぎろん》も遣《や》る、興味《きようみ》を感《かん》ずべき事《こと》に、興味《きようみ》をも感《かん》じてゐる人間《にんげん》だ。』
 彼《かれ》は其後《そのゝち》讀書《どくしよ》を爲《な》す中《うち》にも、睡眠《ねむり》に就《つ》いてからも、イワン、デミトリチの事《こと》が頭《あたま》から去《さ》らず、翌朝《よくてう》眼《め》を覺《さま》しても、昨日《きのふ》の智慧《ちゑ》ある人間《にんげ
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