ほ》は不幸《ふかう》なる内心《ないしん》の煩悶《はんもん》と、長日月《ちやうじつげつ》の恐怖《きようふ》とにて、苛責《さいな》まれ拔《ぬ》いた心《こゝろ》を、鏡《かゞみ》に寫《うつ》したやうに現《あら》はしてゐるのに。其廣《そのひろ》い骨張《ほねば》つた顏《かほ》の動《うご》きは、如何《いか》にも變《へん》で病的《びやうてき》で有《あ》つて。然《しか》し心《こゝろ》の苦痛《くつう》にて彼《かれ》の顏《かほ》に印《いん》せられた緻密《ちみつ》な徴候《ちようこう》は、一|見《けん》して智慧《ちゑ》ありさうな、教育《けういく》ありさうな風《ふう》に思《おも》はしめた。而《さう》して其眼《そのめ》には暖《あたゝか》な健全《けんぜん》な輝《かゞやき》がある、彼《かれ》はニキタを除《のぞ》くの外《ほか》は、誰《たれ》に對《たい》しても親切《しんせつ》で、同情《どうじやう》が有《あ》つて、謙遜《けんそん》であつた。同室《どうしつ》で誰《だれ》かゞ釦鈕《ぼたん》を落《おと》したとか匙《さじ》を落《おと》したとか云《い》ふ場合《ばあひ》には、彼《かれ》が先《ま》づ寐臺《ねだい》から起《おき》上《あが》つ
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