い顔になる者もあれば、とってつけたような笑顔を浮べる者もあるといった調子で、みな一様にひどく照れくさい思いをしながら、どうにかこうにか挨拶だけは済ませて、お茶の席についた。
なかでも一番てれくさい思いをしていたのはリャボーヴィチという二等大尉で、これは眼鏡をかけ、山猫みたいな頬髯をぴんと生やした、小兵《こひょう》で猫背な将校だった。今しがた同僚がとりどりに真面目くさった顔をしたり、とってつけたような笑顔を浮べたりしていた最中、彼の顔は山猫みたいな頬髯や眼鏡もろとも声を揃えて、『僕は旅団じゅうで一ばん弱気な、一ばん控え目な、一ばんぱっとしない将校なんですよ!』とでも言っているようだった。初めのうち、食堂へはいったり、やがてお茶の席についたりする間というもの、彼はいくら頑張っても自分の注意力を、何かきまった顔なり物なりに定着させることが出来なかった。いろんな顔、とりどりの衣裳、切子になったコニャックの壜、コップからたち昇る湯気、漆喰仕上げの天井の蛇腹――といったものが一つに融け合って、全体ひとかたまりの尨大な印象を作りあげ、それがリャボーヴィチにいても立ってもいられないほど不安の念と、穴
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