君を見て来たので、今じゃ将校連などはまるで眼中になく、よしんば、こうして彼らを自分の屋敷へ招いて詫びごとを言いなどしているにしても、それは彼女の受けた教育や、社交界における地位のしからしむるところに過ぎないのだ、といったことは一見して明瞭だった。
大食堂へ将校連が通されて見ると、長いテーブルの一端に、十人ほどの紳士淑女が老若とりまぜて、お茶を前にして着席していた。その椅子の列のうしろには、ほのかな葉巻の烟につつまれて、男ばかりの一団がぼおっと霞んでいた。そのなかに、どこの何者だか痩せ形の青年が一人、ちょっぴり人参色の頬髯を生やし、つっ立っていて、変に喉仏《のどぼとけ》へからませた発音でもって何やら声高に英語を喋っていた。その一団のかげになっている扉口《とぐち》ごしには、明るい部屋が見えて、そこの家具は空色《そらいろ》ずくめだった。
「皆さん、何しろ大勢さんのことだから、とてもいちいちお引合せするわけにはゆかんですなあ!」と将軍は声高に、大いに陽気なところを見せようと努力しながら言った。「まあ皆さんで、銘々ざっくばらんにお近づきになって下さい!」
将校連は、大真面目を通り越していかつ
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