んだ迷惑や騒動を持ち込んで来たものだと、そんな気もしはじめた。多分なにか内輪の祝いごとか行事でもあって、子供づれの二人の妹をはじめ、弟たちや近隣の地主連までが寄り合ったところへ、見ず知らずの将校が十九人も乗り込んで来たのでは、義理にもよろこんで貰えるはずがあるだろうか?
 さて二階へ通ると、大広間の入口で客を出迎えたのは、背の高いすらりと恰好のいい老婦人で、眉毛の黒い面長な顔をしているところは、ウージェニー皇后〔[#割り注]ナポレオン三世の妃、一八二六年に生れ一九二〇年に歿す[#割り注終わり]〕に生写しだった。愛想のいい、しかも威厳のある微笑を浮べながら、お客様がたをわが家へお迎え申し上げてまことに喜ばしい仕合せ至極に存じますと挨拶をし、ただくれぐれもお詫び申し上げたいことは、わたくしも主人もあいにくこのたびは、将校の皆様がたにゆるりと御一泊が願える都合に参りませんことでございますと述べた。その美しい、威厳のある微笑は、彼女が何かの用でお客の傍《わき》を向くたびごとに忽然としてその顔面から消え失せるのだったが、とにかくその微笑によって判断するに、彼女はその生涯に厭というほど沢山の将校諸
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