えて言うには、この際おり入って将校諸君の寛恕を願いたいことは、せっかくお招きはしたものの悠《ゆる》りと御一泊が願えないことである、じつは妹が二人それぞれ子供連れで遊びに来ている上に、弟どもや近隣の地主連までが泊り込んでいるので、屋敷じゅう空いた部屋が一つもない始末だから、という挨拶だった。
将軍は一同の手を満遍なく握って、しきりに詫びを言ったり、にこやかに笑って見せたりしていたけれど、その顔色によって判ずるに、彼がお客を喜んでいる程度は去年の伯爵の足もとにも及ばず、こうして将校連中を招待したのも、まあ礼儀としてやむを得まいという自家の見解に従ったまでのことだという事情は、ありあり見え透いていた。将校連のほうでも、ふかふかした階段を登って行きながら、主人の挨拶を傾聴しているうちに、自分たちがこの屋敷へ招待されたのは、まるっきり招待しないのも工合が悪かろう程度のものに過ぎないことが感じられて来たし、おまけに従僕たちがあたふたと駈け※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]って、階下《した》の入口のところや階上《うえ》の控えの間などに燈を入れている様子を見るにつけて、自分たちはこの屋敷へと
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