造りの穀倉が建ち並んでいて、その重苦しくっていかつい感じは、田舎町の兵営そっくりだった。道の行手には地主屋敷の窓が明るく輝いていた。
「おっと諸君、辻占《つじうら》がいいぞ!」と、将校の中の誰かが言った。「われらのセッターが先陣を承わってるじゃないか。てっきりあいつ、獲物を嗅ぎつけたんだぜ!……」
先頭に立っていたのはロブィトコという中尉で、背が高くがっしりした体格のくせに、口髭が一本もなく(彼はもう二十五を越しているのに、そのまるまると栄養のいい顔には、どうしたわけだか、まだ若草の萌えいずる気配もなかった)、しかも女性の存在を遠方から嗅ぎ当てるという勘と能力をもって、旅団じゅうに雷名をとどろかせている人物だったが、その時くるりと後ろを振返りざま、こう言った。――
「さよう、ここには必ずや何人かの女性がいる。おれは本能でそれがわかるよ。」
屋敷の敷居ぎわまで将校を出迎えたのは、ほかならぬフォン=ラッベクその人で、見れば風采の堂々たる、年の頃六十ばかりの、平服を着た老人だった。客の手を順ぐりに握りながら彼は、頗るもって喜ばしい、この上もない仕合せですと歓迎の意を表したが、それに附け加
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