ように、従僕の寝呆け姿が三つ、長椅子からはね起きた。やがての果てに、さらに部屋を幾つも幾つも通り抜けてから、ラッベク第二世と将校たちが小じんまりした一室へはいると、そこには球突台が据えてあった。早速ゲームがはじまった。
リャボーヴィチは勝負ごとといったらカルタのほかには一切やったことのない男なので、球突台のそばにつっ立って、勝負をしている連中の顔をつまらなそうに眺めていたが、こっちはてんでに上着のボタンを外し、両手にキューを構えて、横行闊歩したり、地口を叩いたり、何やら素人にはわからない言葉をわめいたりしていた。勝負をしている連中は彼には眼もくれず、ただたまに中の誰かが肘で彼を小突いたり、うっかりキューを彼の服に引っ掛けたりなどした時、はじめて顔を振り向けて、『pardon《しっけい》 !』と言うだけだった。最初のゲームはまだ終らなかったが、彼は早くも退屈してしまって、自分は余計者だ、邪魔なばかりだと、そんな気がしはじめた。……ふとまた広間へ帰ってみたくなったので、彼はそこを出た。
その帰りみちで、彼はちょっとした椿事に出くわすことになったのである。中途まで来て気がついてみると、方
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