生活のほうが遙かに騎兵や歩兵よりも楽だと論じ立てはじめると、ラッベクと年配の婦人両名とがその反対を主張する。それがきっかけで、会話のやりとりが縦横十文字にはじまった。リャボーヴィチは、この藤色の令嬢がその身に縁もゆかりもないのみかぜんぜん興味のありようもない問題について、ひどく熱心に議論する有様をじっと眺めながら、その顔に誠意のない微笑が浮んだり消えたりするのを見守っていた。
フォン=ラッベクとその家族は、巧みに将校連を議論の渦中へ引きずり込んでしまったが、自分たちのほうではその間にも油断なくお客のコップや口許《くちもと》に目をくばって、みんな満遍なく飲み物が渡っているだろうか、甘味の足りない人はないだろうか、なぜあの人はビスケットを食べないのだろう、またこの人はコニャックを飲まないのだろう、などと心配していた。そしてリャボーヴィチは眺めるほどに聴くほどにいよいよますます、この誠意のこもらない、とはいえ見事に訓練の行届いた家族が好きになって来た。
お茶が済むと将校連は大広間へ通された。さすがにロブィトコ中尉の勘ははずれなかった。広間には令嬢や若夫人が大ぜいいたのである。セッター中尉
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