う。……あたしの坊や、それにほんとにお利口に、ほんとに色白に生まれついたものねえ」
「島とは」と少年は声を張りあげて読んだ。「陸地の一部にして四面水もて囲まれたるをいう」
「島とは陸地の一部にして……」と彼女はあとについて言ったが、これこそ彼女が永年にわたる沈黙と、想いのうちにひそむ空虚とを破って、確信をもって口にした最初の意見だった。
 こうして彼女にはもう自分の意見というものが出来たので、夜食のときなどサーシャの両親を相手に、当節では子どもたちも中学の勉強がなかなか難しくなってとか、しかしどっちかといえばやはり古典教育の方が実科教育よりも優れている、というのは中学を出たときどの方面へも道が開けていて、志望によっては医者にもなれ技師にもなれるから、などと述べたてるのだった。
 サーシャは中学へ通うようになった。彼の母親はハリコフの姉さんのところへ行って、そのまま帰って来なかった。父親の方はというと毎日どこかへ家畜の検疫に出掛けて、時によると三日も続けて家をあけることがあるので、オーレンカはサーシャが両親にすっかり打棄《うっちゃ》られて、一家の余計者扱いにされ、飢《う》え死《じに》しか
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