けているような気がしてならなかった。そこで彼女は少年を自分のいる離れへ引き取って、小部屋を一つ当てがってやった。
さてサーシャが彼女のいる離れに住むようになってから、早くも半年になった。毎朝オーレンカが少年の部屋へはいって見ると、彼はぐっすり眠っていて、片方の腕に頬をのっけたまま寝息ひとつ立てない。彼女は起こすのが可哀そうな気がする。
「サーシェンカ」と彼女は悲しそうに言う。「起っきなさい、坊や! 学校の時間ですよ」
少年は起きて、服をきて、神様にお祈りをして、それからお茶を飲みに坐る。お茶をコップに三杯のんで、大きな輪形ビスケットを二つと、バターのついたフランス・パンを半かけら食べる。彼はまだ眼がさめきらないので機嫌がわるい。
「ねえサーシェンカ、あんたまだお伽詩《とぎし》の暗誦《あんしょう》がよくできてなかったわね」とオーレンカは言って、まるで彼を遠い旅へ送り出しでもするような眼つきで、じっと少年を見まもる。「世話を焼かせる子だこと。ほんとにしっかりやるんですよ、坊や、勉強するんですよ。……先生の仰しゃることをよく聴いてね」
「いいってば、ほっといとくれよ、お願いだから!」とサ
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