りが何のためにあるのやら、それにどんな意味があるのやら、それが言えず、仮に千ルーブルやると言われたって何の返事もできないに違いない。クーキンやプストヴァーロフがついていてくれた頃も、またその後で、獣医がついていてくれた時も、オーレンカは説明のつかないことは一つもなかったし、どんな問題を出されても自分の意見を述べるに不自由しなかったものだが、それが今ではむらがる想いの間《あわい》にも心の内部にも、ちょうどわが家の庭そっくりのがらんどうが出来てしまっていた。その何ともいえぬ気味わるさ、何ともいえぬ口の苦さは、艾《よもぎ》をどっさり食べたあとのようだった。
町は次第に四方へひろがって行った。ジプシー部落も今では通りと名が変わり、例の『ティヴォリ』遊園や材木置場のあったあたりには、はや家が立ち並んで、横町がいくつもできていた。時のたつのは何と早いものだろう! オーレンカの家は煤《すす》ぼけて、屋根は錆《さ》び、納屋はかしぎ、庭には丈の高い雑草や刺《とげ》のある蕁麻《いらくさ》がいっぱいにはびこってしまった。当のオーレンカも老《ふ》け込んで器量が落ちた。夏になると彼女は例の段々に坐っているが、
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