かに打ち込まずには一年と暮せない女で、今やその身の新しい幸福をわが家の離れに見出したのだということは、語るに落ちた次第だった。ほかの女だったら世間の非難を浴びずに済みそうもないこの出来事も、オーレンカのことだとなると誰ひとりとして悪く思う気にはなれず、彼女の身の上のことは何事によらずもっとも至極とうなずけるのだった。彼女も獣医も、二人の仲におこった変化のことは誰にも打ち明けず、ひた隠しに隠していたけれど、あいにくこれが二人の注文どおりに行かなかったというわけは、オーレンカがおよそ秘密なんていうことは柄《がら》にもない女だったからである。男のところへ連隊の同僚がお客にやって来たりすると、彼女はお茶をついでやったり夜食を出してやったりしながら、牛や羊のペストの話、おなじく結核の話、その町の屠殺場の話などを滔々《とうとう》とやりだすので、男の方ではすっかり閉口してしまい、お客の帰ったあとで彼女の手をぐいとつかまえて、腹立たしげに声を尖らせるのだった。――
「自分の分かりもしない話をするじゃないってあんなに頼んどくのにさ! 僕たち獣医同士で話をしている時には、お願いだから口出しはやめて下さい。
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