の頃になるとちょいちょい朝のうちに、彼女が食料品の買い出しに炊事女をつれて市場へ行く姿が見えるようになったが、彼女がうちでどんな生活をしているのか、家内の様子がどんなぐあいになっているのかということになると、当て推量をしてみるほかに手はなかった。その当て推量の種《たね》になったのは、例えば彼女がうちの中庭で例の獣医を相手にお茶を飲んでいて、男の方が彼女に新聞を読んできかせているところを誰か見かけた人があるとか、更にはまた、郵便局で出会ったある知合いの婦人に向かって、彼女がこんなことを言ったとかいう類《たぐ》いの事柄だった。――
「わたくしどもの町では獣医の家畜検査というものがちゃんと行なわれておりませんので、そのため色んな病気がはやるんでございますわ。のべつもう、人さまが牛乳から病気をもらったとか、馬や牛から病気が感染なすったとか、そんなお話ばかり伺いますのねえ。まったく家畜の健康と申すことには、人間の健康ということに劣らず、心を配らなくてはなりませんわ」
彼女の言うことは例の獣医の考えそのままの受け売りで、今では何事によらず彼と同じ意見なのだった。してみればもはや、もともと彼女は誰
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