、三日すると、平生あまり顔なじみのないさる年配の婦人がコーヒーを飲みにやって来て、食卓に向かって座を占めるが早いか、早速もうプストヴァーロフのことをしゃべり出して、あの人はしっかりしたいい人だ、あの人の所へならどんな花嫁さんでも喜んで行くにちがいない、などとまくし立てたものである。それから三日すると今度は当のプストヴァーロフまでが訪問して来た。彼はほんのちょっと、十分ばかりいただけで、あまり口数もきかなかったが、オーレンカはすっかり彼に恋してしまったのみか、それがまた一通りや二通りの慕いようではなく、その晩はまんじりともせずにまるで熱病にでもやられたように心を燃やし身を焦がし、朝になるのを待ちかねて例の年配の婦人を呼びに使いを走らせるという騒ぎだった。まもなく結納《ゆいのう》がすみ、やがて婚礼があった。
 プストヴァーロフとオーレンカは夫婦になって楽しく暮した。たいてい彼は昼飯まで材木置場に陣どっていて、それから外交に出掛けるのだったが、あとはオーレンカが引き受けて、夕方まで帳場に坐り込んで勘定書を作ったり、商品を送り出したりするのだった。
「当節じゃ材木が年々二割がたも値あがりになっ
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