うもないといふ自暴自棄に似た逃げ口上をさへ用意してゐるのである。
余りに作者の意図を知り、しかも、あまりに作者に忠実であらうとする舞台監督の悩みが、そこにあるのではないか。否それよりも、「自分の仕事」をもたない、「自分の仕事」の範囲について明確な意識をもたない舞台監督のみじめさがそこにあるのではないか。
作者が劇場に足を踏み入れる危険が、また、そこにあり、舞台監督が文学者である不都合が、従つて、そこにある。
私は、少し考へなければならない。
私は、それに、やゝ恢復しかけた健康を、またいくらか損ひかけてゐる。私の主治医は、今日もきびしい、いましめの言葉を残して行つた。体重を計つて見たら、この一月の間に六百目へつてゐる。私は少し暗い気持になつて、町の浴場を出て来た。
向うから、明るい色の背広を軽軽と着て、片岡鉄兵君が歩いて来る。横光利一君の新居を訪ふ道すがらであることがわかつた。
劇場は、この幸福な両君――しばらく想像を許し給へ――この幸福に輝く両君を、あの上、瘠せさせないやうに。
そんなことを思ひながら、私は、本屋の店頭で、文芸戦線の拾ひ読みをした。
新劇協会第二回公演
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