幕が下りて
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)賤民《プロレタリヤ》

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(例)[#ここから2字下げ]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\な
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 自分が芝居の実際方面に関係してから、まだ半年もたゝないのだが、その間に、色々の経験もなめた。理窟だけを並べてゐた時代には、そんなでもあるまいと思つてゐた劇壇の内情を見聞きするにつけて、私は、自分ながら、飛んでもない処へはまりこんだなといふ気がし出した。「血があれる」といふ言葉が本当によく当つてゐるやうな、さういふ雰囲気を感じ出した。かういふ世界で、本当に自分の仕事をして行く人、何か知ら「とらはれない仕事」をして行く人があれば、その人は、全くえらいと思ひ出した。
 私は自分の熱情と、素質に疑ひを持ち出した。

 新劇協会は、今、私の『葉桜』を上演してゐる。私は初めて自作の舞台監督をしたが、作者は、――殊にあゝいふ種類の戯曲の作者は、自ら舞台指揮をなすに当つて、最も困難な立場に置かれるものであるといふ事実
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