をあつと言はせる様な傑作を書きました。是はどういふことかといふと、標準語を学ぶのは決して東京弁を上手に使ふためでなく、自分の使ふ言葉が相手に通じるといふ自信をつけるためなのであります。
 私は方言は非常に好きです。地方の人が純粋にその土地の言葉で話合つてゐるのを聞くのは美しいものだと思ひます。公の場所では標準語が使へないと不便ですが、下手に地方弁をかくすやり方でなく、寧ろ標準語を地方語化するぐらゐの信念と気魄をもつて行きたい。全然想像もつかないやうな方言は他国の人には通じないので、これは困りますが、訛りやアクセントは、幾分残つてをつた方がその人の個性が出て、それがちやんとした教養と人間的魅力に結びつけば、どこへ押出しても立派な言葉、決して品位にかゝはるやうなものではありません。かういふ説を樹てると、折角学校で標準語を教へるために努力を払つておいでになる先生方のお仕事を無視するやうにきこえるかも知れませんが、併し必ずしも標準語普及を無意味とするのではなくて、標準語は一応日本の隅々まで徹底させる必要はありますけれども、併し方言、地方の言葉、自分の言葉を必要以上に卑下するといふことの精神を排
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