極端な整理案でありましたが、しかし幸なことにはこのマレルブの方針は忠実に社会の一部で守られたのであります。その社会の一部とは何処かと云ふと宮廷であります。これはマレルブ一人の力でなく、無論そこには王の意思が強く働いてをつたからだと思ひますけれども、このマレルブの方針は忠実に厳格に宮廷の中で実行されました。たゞ単語の整理ばかりではありません。色々な言廻しも、二様の意味に取れる言廻しを絶対に禁じました。かう云ふ命令は当然色々な反対を外部から受けてゐる。しかしマレルブはこの反対に耳を藉さず、飽くまでこれを実行する決心をもつて進んだのであります。ところが反対は次第に声をひそめて来ました。それは何故かと申しますと、このマレルブの取つた方針は非常に極端と思はれる程のものでありましたけれども、それによつてフランスの国民全体は思ひがけない利益を受けたからであります。さう云ふ言葉の制限はフランス語を言葉として非常に貧しいものにしはしないか、それこそ言葉の泉を涸らすやうなものだと云ふ一見甚だ穏当と考へられる意見も民間の一部の識者からは出たのであります。しかしこの心配は今日までのフランス語の歴史を通じてみま
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