手は好んで悍馬を御する例しもあり、エキリブリストは大道を歩むより針金を渡ることを快とするかも知れない。然しながら、その心理を以て直ちに芸術家の――暫くかう呼ばして下さい――心理を計るのは無礼である。要するにロマン・ロオランの名を信じ過ぎた罪のない誤りではあるまいか。
僕の言ふ「非戯曲的」と云ふ意味は、築地小劇場のいふ「演劇」なるものゝ内容はた本質と更に関係の無いものであるかも知れない。かも知れないではない、きつとさうに違ひない。――どんなつまらない戯曲でも、一度、優れた演出者の手にかゝれば、立派な演劇になるわけである。――かう極端に論じつめなくつてもいゝ。実際、そんな筈はないのだから。――そして、実際、築地小劇場は、どの劇場にも増して、上演目録の選択に腐心してゐるのだから。――それなら、一体、どういふ戯曲があなた方の上演慾をそゝり、あなた方の目ざしてゐる「理想の演劇」に応《こた》へ得る戯曲ですか。――『海戦』のやうなものですか。『白鳥の歌』のやうなものですか。『休みの日』のやうなものですか。さては此の『狼』のやうなものですか。――その何れにも共通な、「或る本質的なもの」、さういふもの
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