文学か戯曲か
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)略《ほゞ》
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人道主義者ロマン・ロオランはまた民衆劇運動の唱道者である。その著書『民衆劇論』はなかなか傾聴すべき議論であつて、当時一部の活動家を刺戟して、危くソフォクレスの時代を夢想せしめたことは事実である。
しかも彼れロオランは、例によつて、一理論家たるに甘んぜず、名著『ジャン・クリストフ』を編んだ如く、こゝにまた近代悲劇数篇を綴つて普ねく世に問うたのである。
此の『狼』はその一つ。
わが築地小劇場は、在来の貴族的乃至ブウルジュワ的芸術を排して「民衆の為めに、民衆によつて」創造せらるべき「芸術」を探究しようとしてゐるらしい。殊に、この新しき芸術は、必ずしも芸術と叫ばれなくてもいゝ。「芸術に代るもの」であつてもいゝとさへ同劇場の首脳は考へてゐるらしい(此の一項は僕一個の解釈である)。芸術と云ふ言葉は既にあまりに貴族的であり、ブウルジュワ的であると云ふのではなからうか。
此のプリンシプルから生れた築地小劇場の事業は、正に刮目に値するものである。何となれば、芸術としての演劇は、やがて、わ
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