品は「芝居になつてゐない」と評してゐるだけであります。その他、当代の権威ある批評家、ジュウル・ルメエトル、アンリ・ボオエル、セアアル……等の諸氏は等しく、この禁止をいはれなきことと宣言してをるではありませんか。その上にです、文部大臣、あなたの管下にある大学教授にして、同時に最も卓越した批評家たるエミイル・ファゲエ氏、同氏も亦新聞「太陽」紙上に於いて、此の作品の価値を認め、殊に第二幕法廷の場の如きは、驚くべき正確さを以て描かれてあるといひ、これこそ一個の宝石であると推賞してをります。
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かくの如く、批評壇の輿論は、この作品を純潔にして真実に富むものと見做してゐる。実際、悲痛な作品が不道徳であることは稀れであります。「娼婦エリザ」は決して風俗を紊す作品ではありません。
これで先づ、形式の上で上演に適しないといふ理由は、消滅しました。今度は、先程も申しました通り、作者の支持してをる思想について吟味して見ませう。
娼婦エリザは、なるほど虐げられたもののために放たれた憐憫と正義の叫であります。その人物の一人が云ふ如く、彼女等は無知と病毒と貧窮との三重の
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