運命を背負はされてをるのであります。即ち、「娼婦エリザ」は、社会に対する呪咀の一幕であるといへます。
 ……なほ、娼家を監視する警察官を以て、一種の客引なりと断じたのは、決してこの作者が初めてではありません。(議場騒然)
 ブルウス君――諸君は子供ではないだらう。
 ミルラン君――本員の言葉遣ひが聞くに堪へないやうなものであるとは思ひません。が……。(続け給へ、と呼ぶものあり)
 ……警官をかくの如き名で呼んだ最初の人は――これを申しても誰の迷惑にもならぬと信じますが――それは、文部大臣の御同僚たるギュイヨオ君であります。同君の醜業婦に関する著書を見られるがよろしい。(笑声起る)ギュイヨオ君はその著書の中で、「娼婦エリザ」に関し、最も正しい批判を下してをられます。
 ギユイヨオ君(労働大臣)――その意見は今日も変更しません。
 ミルラン君――意見を変更されない、よろしい、本員もさう信じます。「娼婦エリザは椿の花を持てる婦人の群より離れて、貧しき少女の上に眼を転じたことが、世間を騒がせた」と云つてをられるのは至言であります。
 即ち問題は、劇場に於いて、この種の社会問題を取扱つた作品を上
前へ 次へ
全25ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング