場することが、危険であるかどうかであります。(文部大臣首を横に振る)
 大臣は危険でないと云はれる、それならば、上演禁止の理由は作品の思想と関係はないことになります。或は、「娼婦エリザ」が公衆道徳を紊すものであると云はれるなら、政府検閲官が、今日まで、果して公衆道徳の完全な維持者であつたか、どうかは、知る人は知つてをるのであります。(左翼より「然り然り」と呼ぶものあり)毎夜、半裸体の婦人の群を舞台に上せ、卑俗極まる歌詞を高唱させてをる幾多の劇場や寄席は、一体どうしたのですか。これを取締らずして、一方、近代小説史上、最も偉大なる名を残すべき作家の一人、ゴンクウル氏並びに、批評家が挙つてその才能を謳歌しつつある新進アジュルベエル氏、この二人の名を冠した、厳粛にして道徳的な作品「娼婦エリザ」の上演を禁止するとは実に言語同断であるといはねばなりません。(拍手)
 ………………………………………………
 本員は、平素、その人格に多大の敬意を払つてをります文部大臣から、検閲の標準について明確な指示を与へられることを希望します……。あまり長く喋舌りすぎたやうです。(「そんなことはない」と叫ぶものあり
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