すか。第一幕の終りで、エリザがその情人を殺す、それがよくないと云はれるのですか。それならばお尋ねしますが、現在市中の大劇場で、成功裡に某アカデミイ会員の作を上場してます。そして、その作品の第一幕の終りに、所謂濡れ場があつて、遂に服のホツクを外すと云ふ所で幕になる。後は見物の想像に委せるわけであります。(左翼より「然り然り」と呼ぶものあり。議場騒然)
 若しも、かういふことを許すなら……勿論、本員がかれこれ苦情を申立てるわけはありません。(笑声起る)
 今日まで、一般の批評家は、自由劇場の上場脚本に対して、可なり峻厳な態度を示して来ました。然るに、この度は、ただ一名の批評家を除く外、一斉にこの作品の勝れたる特質を挙げ、上演を禁止するほどの必要は毛頭ないといふ説を発表して居ります。
 オルヂネエル君――それは仲間褒めだ。
 ミルラン君――いいえ、仲間褒めではありません。なぜならば、あなたの旧友であるフランシスク・サルセエ氏は、その劇評に於て、常に自由劇場の上場脚本を批難攻撃してゐるに拘はらず、この度に限つて、「娼婦エリザ」は毫も上演に差支なきものであることを述べてゐます。ただ同氏は、この作
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