て、政府当面の責任者文部省芸術局長ラルウメ君こそは、劇文学者として、巴里大学講師として、更に劇評家として、「演劇史及び演劇批評の研究」「モリエエルの喜劇」「マリヴォオの生涯と作品」等の名著を公にした人である。
さて、議長は誰であつたか、これがわからぬのは甚だ遺憾であるが、手許には速記録の抜萃だけしかないので、致し方がない。これから、その記録を読みながら、討議の大要と議場の空気とを写すことに努めてみよう。
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ミルラン君(登壇)――諸君、今回、検閲官はジャン・アジュルベエル氏がエドモン・ゴンクウル氏の作を脚色したる「娼婦エリザ」の上演を禁止しました。
この事件に関し本員は、既に世上の問題となりたる禁止不法の批難を、ここで繰り返さうとするものではありません……本員はただ検閲官が、その職権を行使するに当つて、果して十分なる配慮と機宜を得たる処置を取られたかどうかといふ点について、一般の注意を喚起したいと思ふのであります。
聞くところによれば、「娼婦エリザ」の禁止は、先に上院に於ける予算案討議の結果が、ここに及んだのだといふことであります。上院右翼党の一員アルガン君
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