あなたも、いくらか懸念をおもちにはなりませんでしたか」といふ問ひに対して、「さうですね、文句なしに通ると思ひませんでした。禁止されたと聞いて、さほど驚きもしませんでした」と云ひ、「この作品が社会問題を取扱ひ、政府の施設を攻撃したといふ点、ああいふ女の生活を如実に描いてあるといふ点、それは禁止の表面の理由であらうが、それよりも、当局と、脚色者アジャルベエルとの間に個人的の感情問題があるのです」
 諸君、この一項は、ゴンクウル氏の誤解であることを信じて頂きたい。
 ミルラン君――本員はその点には触れませんでした。
 文部大臣――ミルラン君は触れられなかつた。ただ序だから申すのであります。
 なほ、「娼婦エリザ」は、ゴンクウル氏が主として云はれる如く、また、ミルラン君が繰り返された如く、決して、社会問題乃至政治問題を取扱つたがために、禁止されたのではないことを明言します。
 わが尊敬するゴンクウル氏は、仏国共和国政府の諸君が、いかなる感情の下に、その職務に当つてをるかを御存知ないとみえる。この種の問題の研究に対して、不断の注意と、最も熱烈な同情を向けることはわれわれ当局の名誉であり、且つ義務
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