ほんとだ。
それが、ほんとなんだ。
お前は話せる。
ほんとにさ。
お前の話はよくわかる。
そいつは、尤もな話だ。
それがあたり前さ。
違ひない。
おほきに。
[#ここで字下げ終わり]
 一寸思ひつくだけでこの通り(対手との関係を問題外としても)前後の関係で、はつきり、どれを選ぶべきか、自らきまるのであるが、どつちでも意味は取れるし、間違ひでもない。が、その場合はどつちでなければ面白くないといふのがある筈である。これ原文のわかり方によるものである。もつと適切に云へば、原文の調子、味がわかつてゐなければならないのである。
 この上に誤訳といふやつが必ずある。仏蘭西語で、一寸間違はれ易い例を挙げてみても、こんなのがある。
「あなたはほんとにいつまでもお若いですね」
「御戯談《ごじようだん》でせう」――これを「さうお思ひになりますか」
「年のせゐだね、どうも近頃、足が利かなくなつたよ」
「まさか、それほどでもなからう」――これを「あんまり遠くへ行くからさ」
「どうか僕にかまはないで……」
「ぢや、一寸、行つて来ら」――それを「ぢや、さよなら」
 この調子で全篇を訳されてはたまらないが、少しづ
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