女学生も同様寄宿舎に容れる。こゝでは、問題が少しやゝこしいが、ともかく、その指導精神については研究する。そしてこゝでも、女学生に家庭及び社会生活の第一歩を修得させると同時に、万一の場合に備へて、軍陣看護学、一般兵食調理法、その他、戦場に於る後方勤務に必要な基礎訓練を行ふ。要すれば非常時の化粧、服飾美学の概論を授けてもいゝ。
六、専門学校以上は、教師の監督のもとに、男女学生の交互寄宿舎訪問を許す。このために必要な社交室の設備をする。ダンスはいけないが、ピンポンやテニスぐらゐはやらせる。数校の合併による、男女合唱団など作るのもよい。ピクニツクにも教師引率の下に連れて行く。在学中、恋愛は絶対に禁制である。
七、外出は届出によつて自由である。休暇は短いが、帰省のためにだけ与へる。学生の外出には必ず服装検査を受ける。帽子の被り方や、その他の点についていちいち監督者は注意を与へる。習慣を作らせるためである。これは軍隊式だが、しまひにはそれをやらぬと気がすまなくなる。
八、姿勢、歩き方、話し方の、著しい醜い癖を直す。現代礼式の一般を教へ込む。学生は都市の街頭に於る秩序の保持者をもつて任じ、端正な市民の一模範たることを身を以て示すやうに訓練される。これは決して固苦しい意味に於て行儀がいゝとか、真面目腐つてゐるとかいふことではない。学生の姿を見かける市民の誰もが、その若々しく頼もしい次代の市民に微笑みかけたくなるやうなものでなければならぬ。
九、学校当局は、新しい学生の生活訓練に於て、十分研究された独自な方法を実行するのであるが、一二の不心得者がその結果、ヘマをしでかしたからと云つて、その案をすぐに引込め、すべて事なかれ主義で臨むことは最も悪質の保守教育であることを自戒すべきである。
学生には、何よりも、学生であるといふ自信と気楽さを与へ、次に、所属の学校に対する信頼と愛情とを吹き込み、更に、今日最も肝腎な注意として、日本国民の真の再組織は、彼等の時代に於てこそ力ある発展段階に入るものであることを心に期せしめなければならぬ。
一〇、剛健な気風を養ふと称して、近時、再びまた肩を怒らせ、一種の蛮声を張り上げるやうな学生の型を生ぜしめつゝあるのは考へものである。かかるポーズは、年少者の他愛なき英雄主義を満足させるだけで、決して、底力ある勇気と緻密な頭脳の涵養にはならぬ。この反動的な虚勢の
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