むに堪へないものである。
二十六歳の正月二日、かう書いてゐる。
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――髪を短くしてゐても、詩人にはなれる。
詩人であり、しかも家賃の払へるものがゐる。
いかに詩人と雖も、妻と寝ることは差支へない。
詩人も、時として、フランス語で書くことがある。
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二十九歳の三月、ポオル・クロオデルについて、
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――だが、どういふわけで、クロオデルは、一方で「金の頭」とか、「都市」とかいふ風なものを書き、一方で、ニユウヨオク副領事の地位にありつくための報告書みたいなものを書くのだらう? 芸術家は、祈る時も飯を食ふ時も、同じでなければならぬ。
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三十一歳の三月
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――皮膚に皺のない一人の日本人が私にいつた。「初めはヨオロツパ人はどれもこれも同じやうに見えました。一人々々を区別するのに、かなり暇がかかりました」
そこで、私は「しかし、われわれはブロンドか、さもなければ褐色か、或は赤毛です。君たちは、みんな黄色い顔で、黒い髪をしてゐるぢやありませんか」
すると彼は、「あなた方にさう見えるだけ
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