角作者に対して、あまり親切すぎるのがよくないのである。自分の兄弟かなにかなら、あゝハイカラでも困るとか、あゝ気取つてゐては嫁に来手があるまいとか、そんな心配もしなければなるまいが、そこは赤の他人ぢやないか。

 此の間も何かで読んだが、或る人が或る作家のことを「まだ人間として頼りない気がする」と云つてゐた。その人の息子か娘婿でゞもあるのかと思つたら、さうでもないらしい。その作家がその人の処へ何か頼みにでも行つたのかと思つたら、さうでもない。実は、その作家の作品について話しをしてゐるのである。小生は撫然としてその作家の為めに悲んだ。かういふことは、公の席で云ふべきことだらうか。作品の批評をする為めに、作家の人物に触れる必要があつたら、芸術家としての素質を芸術家らしく云々するがいゝ。此人はその作家と別懇な間柄らしくもあるが、それならなほ更のことである。此の種の批評は、文学を俗化し、読者に不純な好奇心を与へ、芸術の真正な鑑賞を誤らしめるものである。
 まだ、ひどい例がいくらもある。「此の作者は頭が悪い」とか、「人物がオツチヨコチヨイだ」とか、誠に聞くに堪へない暴言を平気で書き連らねてゐる批評
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