素面の管
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)五月蠅《うるさ》い
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文学を愉しむ文学者の少いことは一体わが国の誇りですか。
あれではいけない、これではいけない――まあ、なんといふ気むづかしい連中の寄合だらう。
それもいゝさ。批評家などゝいふものは、わかつてもわからなくても、顔をしかめてさへゐれば、何か意見がありさうに見えるんだから。しかし、自分で小説なり戯曲なりを書いてゐながら、人の書いたものと云へば頭ごなしにこき下し、たまに褒めたかと思へば、きつと説教めいた文句で、将来の心得まで附け加へなければ承知しない。そんな仲間が、どこへ行つたつてあるもんかい。
殊に片腹痛く思ふのは、世界歴史さへ碌に知らずに、時代がどうの、社会がどうのと、文学そつち退けの思想家気取り、そんな批評家もたまに出て来るのは愛嬌だが、猫も杓子も、文学史論はちと聴きづらい。
凡そ当今の文壇に、奇々怪々な迷信が一つある。曰く「作家の職分」に対する迷信。
詳しく述べるまでもない。文学者殊に作家は、人間のうちで、一番「えらい人間」だと思つてゐることである。さう思はなければ
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