段階がどうであらうと、それは、それぞれの専門家の研究に信頼しよう。われわれ日本人が、現在、いかに、精神的に堕落しつつあるか(為政者などの云ふ意味とは、正に裏表の差で)といふことも誰も注意しないとしたら、せめて、文学者の一部が(全部では絶対にいかぬ)それを注意し、民衆の覚醒と為政者の反省を促したら、どんなものであらうと、私はかねがね考へてゐる。
近頃、強権階級の所謂「国民精神作興」などいふ合言葉の内容はもちろん、皮肉にも、国民精神を不具腐敗に導く危険があり、また同時に、大衆運動の最も根強い力となつてゐる左翼的思想の如きも、一歩を誤まれば、わが国現代文化の水準に於いては、単なる封建的復讐の伝統に結びつく傾向を示してゐる。
現制度の最も著しき弊害として、私は、官尊民卑の風と、金力万能の思想を指摘したが、前者は官吏が威張つて民衆を軽蔑するといふ意味だけでなく、その反動としてではあるが、民衆が自ら卑下して、官吏を敬遠するといふ意味も含めてゐるのである。その結果民衆の一部は、必要以上に肩を怒らして、官吏何者ぞ、彼等こそ軽蔑すべき人種なりと、町奴的見栄を切る。この現象は、やはり私の云ふ、官尊民卑
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