続言葉言葉言葉(その一)
岸田國士

 私は嘗て、「何かを云ふために戯曲を書くのではない。戯曲を書くために何かしらを云ふのだ」と揚言し、自分の戯曲文学に対する熱情と抱負とを、明かにしたつもりである。
 その態度は最近まで変らずに持ちつづけてゐた。そして、それは、少しも誤つた態度ではないと今でも信じてゐるが、たまたま、近頃になつて「戯曲を書くため」に、なんだか邪魔になつてしかたがない「もやもやした考へ」が、頭のなかに巣喰つてしまつたのを感じ出した。
 この「もやもやした考へ」は、いかに努力をしても追ひ払ふことはできない。固より雑誌の締切に追はれてではあるが、どれ、一つ書き出さうかと机に向ひ、あれこれと主題を択び、人物の風貌を頭に描いてみてゐるうちに、いつの間にかその「もやもやした考へ」が、道具もそろはない舞台の上を占領して、勝手な芝居をしはじめるのである。
 私は、その都度ペンを投げ出して、煙草に火をつける。煙のなかに私の夢は吸ひ込まれて、あとには、しびれたやうな頭と、愚にもつかない胸さわぎが残る。腎臓病のせいか、狂気になる前兆か、それとも所謂詩藻の涸渇か、こいつは、なんにしても面白くな
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