り有難がらぬ。「人の説」を聴き飽きてゐるから、お説教は最も嫌ひな手合である。「進歩的な」ものを見せるなどと宣伝しては損である。自分の方がそれより進んでゐると自負し兼ねないから。それに、「新しい思想」は舞台から学ぶ必要もなからうと空嘯くに違ひない。彼等は、オリヂナルな思想なんてさうざらにないと高をくくり、未だ嘗て、思想そのものに感激したことのない連中である。そのくせ、月並と卑俗を軽蔑し、自称英雄と附和雷同の徒を笑殺する。ブルジョアの悪趣味と、革命家の涙に嘔吐を催し、重大事を笑ひながら語ることを一向罪悪と思はず、偽善的深刻さよりも、寧ろ意識的駄洒落に対して寛大である。「新劇」は将来、かかる見物を「獲得」すべきである。
[#ここから2字下げ]
彼等は必ずしも、演劇の新様式に興味をもたず、その芸術的進化の跡に対して無関心であるかもしれぬ。が、絶対に作者と俳優と登場人物とを混同するやうなことはない。彼等は、就中、人物と俳優との隔りに敏感である。彼等の世相の観察は、今日の新劇俳優の誰彼より遥かに豊富で且つ鋭いことを知らねばならぬ。
この種の見物は、決して、「演劇」を真の意味で「先駆的」たらしめ
前へ
次へ
全15ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング