玉の肌、露の滴、夢は千里を駈けるらん。
女優A′[#「A′」は縦中横]  その志はうれしいけれど、生憎《あいにく》、見当が外《はづ》れてるよ。それはまあそれとして、あたしが頼みたいことといふのは、お前さんは当家の執事なんだから、職務がら、ひとつ、御前《ごぜん》を欺して、見込のない事業か何かに、財産をすつかり注ぎ込まして欲しいの。家屋敷は無論、人手に渡す覚悟で、思ひきり大きくやつておくれよ。あたしは、御前《ごぜん》と二人で、裏長屋に住んでみたいの。
男優E  それで、わたくしは……。
女優A′[#「A′」は縦中横]  帳面でもなんでも誤魔化すさ。あとで困らないやうに刎ねられるだけ刎ねてお置き。あゝ、こんな生活はいやいや。せめて、暑さ寒さが身にこたへ、水一杯、お粥ひと啜りがお腹《なか》にしみるやうな暮しをしてみたい。
男優E  仰せではございますが、これをわたくし、そのまゝ御前《ごぜん》のお耳に入れる所存でございます。御立腹なさいませうな。――怪《け》しからんことを云ふ。よし、すぐにも、あの女、暇を出せ、籍を抜け、裸にして追ひ返せ、かう、例によつて……。
女優A′[#「A′」は縦中横]  
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