横]  なにも秘密な話だからつて、そんな時代めいた口調にならなくたつていゝだらう。当節、お前のやうな男は流行《はや》らないよ。まごまごしないで、こつちへおいでよ。
男優E  はい。でも奥様、万一の用心に、私は、この木の蔭にかくれてお話を承りませう。奥様のお声と、鳥の声とは、どうやら聞き分けられさうでございます。(蹲《うづくま》る)
女優A′[#「A′」は縦中横]  当り前ぢやないか。梟と間違へられてたまるもんか。しかし、いざとなると云ひ出しにくいね。お前、大概、察してるだらう。
男優E  察しろといふお許しは、まだ出てをりませんやうに考へますが……。
女優A′[#「A′」は縦中横]  ぢや、許すから、云つてごらん。
男優E  では、恐れながら、申上げます。あの、殿様をひと思ひに……。(はッとして)声が大きうございますか。
女優A′[#「A′」は縦中横]  小さくつて聞えないんだよ。
男優E  あの、わたくしのやうな不束者《ふつゝかもの》でも、奥様の御意に叶ひませば、命に代へて御奉公をいたさうと覚悟いたしてをります。水の中、火の中はおろか、天井裏、床下、さては、お靴下の底でも厭ひません。
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