時田  雪平の上には、今年もまた五十軒から別荘が殖えるつてね。
州太  法経大学村でせう、あそこのシステムもいゝにはいゝが、わたしはわたしのシステムでやりますよ。あれの真似をしたと思はれるのがいやですからね。
時田  あ、さうさう、序だから、郵便を持つて来た。日疋さんからもなんかあつたつけ。(郵便物を渡す)
州太  (いちいち裏返してみて、そのうちの一通を開封する)
時田  日疋さんもしばらく見えないが、どうしてゐなさるか知ら……。
州太  (それには答へず、黙読を続ける)
時田  (手持ち無沙汰さうに立ち上り)おや、今日は、煙が丸で出てない。またひと暴れするんぢやないかな。
州太  ……。
時田  今年の山開きには、わしも久し振りで登つてみようと思つとるんだが……。
州太  ……。
時田  時に、この前頼んどいた石楠花《しやくなげ》は、まだ手にはひらんかね。
州太  電報を一つ打ちたいんだが、帰りに頼みます。
時田  日疋さんへかね。よろしい。文句だけ云ひなさい。住所はわかつとる。
州太  ちよつと書きませう。
時田  簡単なことなら覚えてるよ。「オンセンデタスグコイ」かね。
州太
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