(黙つて部屋にはひり、頼信紙に文句を書きつけて、出て来る)
時田  (受けとつて読む)――「キカイウツスヒトヨコセ」ツイデニ……ツイデニ……これやなんだね。あゝ、さうか、わかつた。なるほど、はたでみてるよりは、経費《かゝり》が大きいわけだね。(サイダアをコツプに注いで飲む)今日はね、丹羽さん、実は、あんたに少し頼みたいことがあつて来たんですがね。
州太  わたしに……? はあ……。伺つてみませう。
時田  なに、つまらんことなんだが、わしんとこの娘さ。御承知のやうな事情で、今、手許に置いてあるんだが、何時までもあのまゝぢや可哀想だし、なんとかせにやならんと思つとる。そこで、ひとつ、あんたは顔も広いし、そのうちに、心当りがあつたらどんなところでもいゝ、是非世話をしてやつていたゞけたらと、昨夜も婆さんと話し合つた次第だ。どうでせう、おやぢの口から云ふのも可笑しいが、誰がみても、二十八とはみえない若作りではあるし、子供さへこつちへ引取ることにすれば、初婚だと云つても疑ふものはなからうと思ふ。それはまあ、よろしいやうにお委せするとして、早い話が、日疋さんのやうな方でもだね、万一、奥さんを探
前へ 次へ
全75ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング